渓谷を歩いていると、ゾンビのドラゴンが襲ってくる。
一撃目で李猫が負傷し、ニコルが足がすくむ。
ニケは李猫とニコルを小脇にかかえて走りだし、アグロを呼ぶ。
ニコルと李猫を放り投げて叫ぶ。
「アグロ、先に走れ」
「アグロー! 止まれ。ご主人様が死ぬぞ!」
と李猫が言うも止まらぬアグロ。
ニケが異形化を使い、岩を切り崩してゾンビドラゴンを生き埋めにしたところで、李猫たちが戻ってくる。
「出てくる前に逃げるぞ」
角は大きく、青い鬼のようになっているニケを見て、李猫は思わず聞いた。
「ニケさん?」
「他人です」
「誰さ!? ニケ! 異形化を見られたくなかったからこうしたのか!? ぷんすか!」
「小言はあとで聞く。逃げるぞ」
李猫は異形化という言葉を使っていた。
その時初めてニケは、この不気味な能力が異形化という名前だと知った。
宿屋で部屋をとったあと、ニコルは聞いた。
「あの生き埋めにした竜、怒ってないでしょうか」
「脳が壊死した竜はもうゾンビ同然さ。顔なんて覚えられない」
「ところで、異形化ってなんです?」
「あの角がでかくなるやつさ。ものすごく力が強くなるって聞いたことがあるさ」
「へー、便利ですね」
「そのかわり角に食われるさ。たくさん使いすぎると、理性が角に食われる」
「へー、しらなかった」
「あまり使うんじゃないさ。ニケはそのままでも十分強いさ」
李猫はニケのことを十分強いとお世辞で言ってるわけではなさそうだった。
宿屋の下は酒場で、たくさんのドワーフたちが飲んだくれている。
ここはドワーフの村だからだ。
「ニケ、酒飲んだことないさ? 解禁解禁」
と言って李猫が火酒を飲ませる。
てっきり酔うと自分でも思っていた。どうやらニケはざるのようで、李猫が先に酔いつぶれて二日酔いするも、ニケはピンピンしている。
外に出ると、ゾンビドラゴンがやってくる。
ニケが迷わず異形化しようとするのを李猫が止める。
「策がある。ニケ、足止めをしばらく頼む」
火酒をもってくるように李猫はドワーフたちに言った。
元々勇敢な種族のドワーフたちは、戦ったこともろくにないはずなのに、どんどんと縄をゾンビドラゴンにかけてツルハシや鉄杭をつかって暴れるゾンビドラゴンを固定した。
それに火をつけてゾンビドラゴンを焼き殺す。
焼かれて炭のようになったゾンビドラゴンの首。
その首に刺さった鉄の矢を李猫が抜いた。
「これがドラゴンがゾンビドラゴンになった理由か」
「ドラゴンを中途半端に仕留めると、そこからバイキンが入って、こうなるわけか」
「ざっくり言うとそうさな」
李猫は弓矢を見つめて、捨てた。
「冒険者の経験点を稼ぎたいがゆえに、焦る奴らもいるさ」
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